金曜日には黒百合を。


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先週末の金曜日。
雨に煙る東京湾を見ていたら
どうしてもその花に会いたくなりました。
帰宅途中にも花屋はあるけれど
自宅とは逆の方角に向かいたかったのです。
この時季 どの花屋の店先も色とりどり...
賑やかに色が零れます。
辺りに青い匂いを振りまいて、
湿度が高い日などは酔う程の甘さが鼻をかすめます。
チューリップやアネモネ...ラナンキュラスにミモザ...。
アネモネもラナンキュラスも近年進化が著しいですね。
先々週には見紛うような姿のアネモネにも出逢いました。

パステルの軸が...目の前で右に左に重なって
白い襟元...ボタンを外した袖口を汚すさまが嬉しいのです。
きっと和花を扱うあの店なら当てが外れることもないだろう...
そんな気持ちでいそいそと向かったのでした。

地下鉄を乗り換えて銀座に出た頃には
雨も一層激しくなっていて
せわしなく人が行き交う地下道には
むせかえるような暖かい獣の匂いが充満していました。
こんなところにも知らぬ間に春が忍び込んでいるんですね。
人間も春になると怪しい匂いを発するようになる...
そんな風に感じることもしばしば。
年を重ねる毎に嗅覚が敏感になっているのかもしれません。

地下道を抜け 地上に出ると
軒下では見知らぬ紳士が雨の行方を空に訊いています。
細いヒールが折れんばかりに走り去る女達。
薄い紙の把っ手が千切れて こぼれた淡い包みに横顔が歪む。
ボトルを搬入する男達の背中には雨がまとわりついて
自ずと肩甲骨を浮かび上がらせる...。

たしか閉店は19時だったはずだから
まだ一時間はたっぷりある...。
店内に足を踏み入れると見事な枝振り...山採りの枝もの。
ホトケノザやヒメオドリコソウ...福寿草。
随分と小ぶりな花を咲かせる矮性のバイモなんかもありました。
丈の低い可憐な野花たちに交じって
たっだ3輪、入荷したての瑞々しいその花は残っていたのです。
矮性のバイモも気になったけれど、自宅のバイモも開花まであと僅か。
求めていたその花だけを包んでもらっている最中...
雑然と花器が置かれた棚のすみっこに
ドライになりかけた素敵な枝がぽつんと置かれていたんです。
おそらくディスプレイ用で売り物ではないのだろう...な。
打診してみると、こころよく「どうぞ...さしあげますよ」なんて。
こういったやりとりは珍しくなく...所謂売り物ではない
朽ちた花の行方についつい眼がいってしまうのです。
この日に求めたのは数少ない数輪のみでしたが
返り際、その花の色に 僕の胸はあっという間に染まってしまい
傘など...必要にせまられている誰かにそのまま譲ってあげたいほどでした。
奇をてらう訳ではありませんが、濡れて歩くのが本当に好きなのです。

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雨は様々なものを胸に運んでくれます。
昼間は下界に降り注ぐ雨を硝子越しに見遣り
陽が沈んでからは打って変わって我が身に降り注ぐ...。
いちばん気持ちがやすらかになる日なのです。

それから約一週間が経ち、茎は折れたものの、
花器の足元に半ば俯くような姿で咲いています。
こんなに美しい花に 人間は残酷な花言葉を与えたのですね。
僕はつい最近、人から教えてもらうまで知りませんでした。
小さな花束にして友人に贈ったこともあったというのに(笑)

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我が家でも育てていますが、露地ものはあまり背が高くなりません。
それに花を咲かせるまでにはまだまだ春は浅い。
店先から姿を消すまでのほんの短い期間しばらくは追い求めたい...
そんな気持ちを抱かせる僕にとっては特別な花。

土砂降りの翌日は木漏れ日も鮮やかな暖かい一日でした。
庭のバイモも一気に開いて、
その一角だけ光を集めているように見えたものです。

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明日は名残りのヘレボルスをご紹介します。
まだまだ蕾を立ち上げているものもあって
手折ってしまうには忍びないのです。
植え替えしてあげなければいけませんね。
お時間がありましたら、どうぞお立ち寄りください。
僕は今から夜の散歩に出かけます。
おなかも空いてきましたしね(笑)
雨に濡れた沈丁花に...
そう、往く先は任せるつもりです。

G d D
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by MiscellaneousOGRs | 2008-03-20 00:00 | 日暮らし
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